本記事で取り上げる書籍
『世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか』
著者:レイ・ダリオ(Ray Dalio)/訳:斎藤 聖美
出版社:日経BP(日本経済新聞出版)
出版年:2023年9月
ISBN:978-4296116188
ヘッジファンド創業者が示す「国のライフサイクル図」
500年分の経済・政治・軍事・通貨データを徹底解析し、「国家の栄枯盛衰には驚くほど似たパターンがある」と語るのが本書の著者レイ・ダリオです。
米中覇権交代のシグナル、債務膨張と通貨安、国内格差と社会不安……。こうしたマクロ変動を個人レベルでどう読むか――スキルアップと資産防衛の双方を図るうえで避けて通れない問いに、本書は具体的な「原則」を授けてくれます。
国家が興亡するときに必ず現れる5つの兆候
- 生産性サイクルの終盤で債務が爆発する
- 通貨の基軸性と軍事力が同時に揺らぐ
- 内部対立(格差・イデオロギー)が外部対立(貿易・通貨戦争)へ波及
- 財政出動でインフレを抑え込もうとするが、必ず遅れる
- 技術革新と教育投資が停滞し、スキルアップ機会が細る
ダリオは、これらが重なる臨界点を「ビッグサイクルの転換点」と呼び、その兆候を米ドル・金利・軍事費・教育費といった可視化可能な指標で追跡しています。
印象に残ったポイント:個人も“ミクロ国家”だという視点
SEとして世界経済を直接動かす立場にない私でも、本書を読んで「自分という国家」を運営する発想が腑に落ちました。
- 通貨主権=キャッシュフロー:副業と投資で複数通貨(収入口)を持つ
- 軍事=専門スキル:AI・データ分析で“抑止力”を高める
- 外交=ネットワーク:海外コミュニティでレピュテーションを築く
こうしたミクロ戦略に落とし込むことで、自己防衛とスキルアップの方向性が明確になったのです。
2025年“トランプショック”が日本に与える現在の影響
2024年11月の米大統領選でトランプ氏が返り咲き、2025年4月2日に全輸入品に一律10%(国別最大46%)関税を課す新政策を発表したことで、日本経済は「トランプショック第二幕」に直面しています。
まず自動車を中心とする対米輸出が急減し、IMFは日本の25年成長率を0.6%へ下方修正。
円相場は関税警戒のドル高で一時158円台まで下落し、原材料・エネルギー輸入コストが上昇しました。株式市場では輸出依存度の高い輸送用機器と電機が売られ、日経平均は政策発表翌日の4月3日に▲2.4%。もっとも、投資家は「内需+円安メリット」の二極化を進め、ヘルスケアやインバウンド関連には資金流入が続いています。
政策面では、政府が5月補正で1.2兆円規模の中小企業関税還付スキームを決定し、日銀は4月30日の金融政策決定会合で追加利上げを見送り 。
一方、ドル建て資産の円換算評価額は上昇しており、NISAで米株ETFを積み立てていた個人投資家には追い風。為替と関税は“痛みと保険”の両輪で、リスク分散と米国株比率の再考が急務です。
さらに、米中関係悪化を背景に「経済安全保障シフト」が加速し、半導体・防衛技術に国費が集中。これは日本のDX・セキュリティ分野でエンジニア需要と報酬の上振れを招いており、中長期ではスキルある人材ほど恩恵を受ける構図が鮮明です。要するにトランプショックは「輸出と生活コストには逆風、ドル資産と高度IT人材には順風」という二面性を持ち、個々のポートフォリオ設計とキャリア開発の妙味が一段と高まっています。
誰におすすめか
- マクロ経済×投資戦略を総合的に学びたいビジネスパーソン
- 地政学リスクと資産配分の関係を理解したい個人投資家・保護者
- 米中覇権交代を政策立案に活かしたい行政関係者
- AI・サイバー分野でグローバルキャリアを狙う20〜40代エンジニア
- 歴史とデータで“未来予測”を行う方法論を知りたい中高生
まとめ:ビッグサイクルとともに“個人国家”を再構築せよ
ダリオのメッセージは「歴史は韻を踏む。パターンを知れば恐怖は戦略に変わる」ということです。
通貨・軍事・教育・格差の相関を理解し、ミクロに適用することで、私たち個人も次の世界秩序でサバイブできます。
資産配分、ネットワーク構築、そして継続的なスキルアップ――。本書はその全体設計図として、手元に置き続ける価値があります。